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なぜ社内のFAXはまだなくならないのか
電子契約やチャットツールが定着した後も、FAXが業務フローから消えない職場は少なくありません。取引先B社のような相手先の運用や、行政・金融機関とのやり取りにFAXを前提とした手続きが残っており、情シス側だけで「廃止」を決められない業務が一定数あるのが実情です。
一方で、複合機によるFAX運用にはコストと手間が積み上がっています。リース料、専用回線の基本料、トナーや用紙代に加え、「誰かが機械の前にいないと受信に気づけない」という弱点があります。拠点Aのように複合機が共有スペースにしかない場合、受信FAXの取り違えや放置も起こりがちで、テレワークが定着した組織ほどこの制約が目立ちます。
クラウドFAX(インターネットFAX)への移行は、FAXそのものをなくす話ではなく、送受信の経路をネットワーク経由に置き換える話です。相手先は従来通りFAX機から送ってくる前提のまま、自社側の受け皿だけを変える設計が現実的です。
クラウドFAXとは何か(仕組みの整理)
クラウドFAXは、FAX番号を通信事業者側で管理し、受信したFAXを画像データ(PDFやTIFF等)に変換してメールやWeb画面で確認できるようにするサービスです。送信もWebブラウザへのアップロードやメールソフトからの添付送信で行え、物理的なFAX機や電話回線は不要になります。
付与される番号は、事業者が管理する050番号が基本形のことが多く、03・06などの市外局番はオプション扱いのケースがあります。既存番号をそのまま持ち込めるか(番号ポータビリティ)はサービスごとに条件が大きく異なるため、比較検討の初期段階で必ず確認すべき項目です。
移行で得られる効果と、現実的な限界
クラウドFAXに移行すると、一般的に次のような効果が期待できます。
- 在宅勤務者や外出中の担当者でも、受信FAXをメールやWeb画面で確認できる
- 複合機や専用回線の維持コスト(回線基本料・トナー・用紙・保守)を圧縮できる可能性がある
- 送受信履歴がシステム上に残り検索・共有がしやすく、拠点をまたいだ番号管理も情シス側で一元的に把握しやすくなる
一方で、次のような限界も踏まえて設計する必要があります。
- 相手先が古い複合機やアナログ回線から送信してくる場合、通信品質によっては受信画像が乱れることがある(クラウドFAX側だけの問題ではなく、送信側の回線・機器にも依存します)
- 手書き書類や捺印済み書類など、紙のやり取りそのものが目的化している業務は電子化だけでは解消しない
- 受信データを電子帳簿保存法上の電子取引データとして扱うかは書類の性質と社内ルール次第で、適合可否は顧問税理士等の確認が必要
「FAXをなくせば全部解決する」というものではなく、受信・送信の入り口を変える施策として捉えたほうが、移行後のトラブルは少なくなります。
導入前に棚卸しすべき項目
比較検討に入る前に、自社の現状を数字で把握しておくと選定がぶれません。最低限、次の項目は洗い出しておきたいところです。
- 現在使用しているFAX番号の一覧(拠点ごと・部門ごと)と回線種別(アナログ回線、ISDN、複合機付属など)
- 月間の送信枚数・受信枚数のおおまかな実績(複合機のカウンタや請求書から把握できることが多い)
- FAXを実際に使っている部門・業務(受発注、契約書のやり取り、行政手続きなど)
- 複合機のリース契約残期間・解約条件
- 受信FAXを現状どう共有しているか(紙のまま回覧、スキャンして共有フォルダへ、など)
クラウドFAX選定の比較軸
複数のサービスを比較する際は、価格だけでなく運用面も含めて見る必要があります。主な比較軸は次の通りです。
- 月額基本料金・送受信単価:プラン体系、無料枚数の上限と超過時の従量課金額
- 番号の種別・番号ポータビリティ:050番号のみか市外局番オプションがあるか、既存番号をそのまま引き継げるか
- 同時受信・複数ユーザー対応:部門ごとにアカウントを分けられるか、閲覧権限を制御できるか
- セキュリティ・監査ログ:IPアドレス制限、通信の暗号化、第三者認証、送受信履歴の閲覧期間
- 対応ファイル形式・サポート体制:添付できるファイル形式、問い合わせ対応時間、番号変更時の取引先通知支援の有無
棚卸し結果と突き合わせ、想定枚数で割安なプランかを試算してから選ぶと導入後のギャップが出にくくなります。
MOVFAXの特徴(公式サイトで確認できる仕様・執筆時点:2026年7月)
一例として、国産サービス「MOVFAX(モバックス、運営:日本テレネット株式会社)」の仕様を、公式サイト(movfax.jp)で確認できた範囲で整理します。
- プランは2種類。スタンダードプラン(個人事業主・小規模向け)とプレミアムプラン(複数ユーザーでの共有・管理向け)
- 初期費用:両プランとも1,000円(税込1,100円)
- 月額基本料金:スタンダードプラン980円(税込1,078円)、プレミアムプラン3,980円(税込4,378円)
- 受信料金:1ヵ月1,000枚まで無料、1,001枚以降は1枚10円(税込11円)
- 送信料金:全国一律1枚10円(税込11円)、通信時間による条件なし
- 番号:050から始まる11桁が基本。オプションで東京(03)・大阪(06)・神奈川(045)の市外局番を利用可能(各月額100円・税込110円、2025年3月時点の情報)
- 既存のFAX番号をそのままMOVFAX受信番号として引き継ぐことはできない(公式FAQで明記)。旧番号への着信をMOVFAX番号へ転送する方法はあるが、転送設定は契約中の電話会社側のサービスとなりMOVFAXのサポート対象外
- 送信方法:Webブラウザからのアップロードのほか、普段使うメールソフトからファイルを添付して送る方法にも対応。受信方法はメール通知(最大5宛先)とWeb画面での確認、フォルダ振り分け・検索
- 対応ファイル形式(送信):PDF、Word/Excel/PowerPoint(Office 2010・2013形式)、画像ファイル(jpg/tif)。ファイルサイズは10MBまで、送受信履歴の閲覧・検索期間は4ヶ月間
- プレミアムプランはサブID作成、FAX自動振分け、ステータス管理、IPアドレス制限による閲覧制御に対応(作成できるサブID数は公式ページ間で「4つまで」「5つまで」の表記差があるため契約前に要確認)
- プライバシーマーク、総務省の「ASP・SaaSの安全・信頼性に係る情報開示認定制度」を取得、通信はSSL暗号化に対応
- API連携の可否や同時受信数の上限は公式サイトの記載からは確認できず、契約前に問い合わせが必要(公式サイトで要確認)
移行手順の進め方
番号を一気に切り替えるのではなく、並行運用を挟みながら段階的に進めるほうがトラブルを抑えられます。
- 並行運用の設計:新しいクラウドFAX番号を取得し、既存の複合機・回線と一定期間並行稼働させる
- 社内周知:新番号の運用開始日、受信確認の担当者・手順、旧番号の廃止予定日を関係部門へ共有する
- 取引先への番号切替案内:主要な取引先には新番号への切替時期を事前に案内する
- 複合機のFAX機能停止・回線解約:受信の抜け漏れがないことを確認したうえで停止する
- 運用ルールの整備:確認担当・確認頻度、フォルダ振り分けルール、アカウント権限の棚卸しルールを文書化する
移行時に注意しておきたいポイント
- 名刺、Webサイト、契約書のひな形など社内外のFAX番号の更新箇所を事前にリストアップする(更新漏れがあると旧番号宛の送信が長期間続く)
- 受信通知メールが個人の受信箱だけに届く設計だと休暇・異動時に見落としが起きやすい。共有アドレスや複数宛先への通知設定を検討する
- 退職者・異動者のアカウントを放置しない。人事異動のフローにアカウント管理を組み込む
- 受信文書の保存形式は電子帳簿保存法の観点から対象書類に該当するかを整理し、判断に迷う場合は税理士等に確認する
- 引き続きFAX機からの送信しか対応できない取引先もあるため、番号ごとに移行の可否を判断する
よくある質問
Q1. 既存のFAX番号のまま、クラウドFAXに移行できますか
サービスによって条件が異なります。MOVFAXの場合、公式FAQで既存番号をそのまま受信番号として設定できないと明記されています。番号を維持したい拠点がある場合は契約前にポータビリティ対応状況を確認してください。
Q2. 複合機のFAX機能をすぐに止めても大丈夫ですか
リスクがあります。取引先が新番号への切替に気づかず旧番号へ送り続けるケースがあるため、一定期間の並行運用とモニタリングを経てから停止するのが無難です。
Q3. 受信したFAXは電子帳簿保存法の対象になりますか
書類の性質や取引の形態によって扱いが異なり、一律には言えません。電子取引データとしての保存要件に該当するかは、経理・税務担当や顧問税理士に確認したうえで保存ルールを整備することをおすすめします。
Q4. 相手先が古い複合機からFAXを送ってきた場合、受信品質に影響はありますか
送信側の回線・機器の状態によって受信画像の品質が変わることがあります。クラウドFAX固有の問題というよりFAX通信全般に言える点で、必要に応じて相手先に再送を依頼できる体制を整えておくと安心です。
Q5. 複数部門でFAXを共有している場合、権限管理はどうすればよいですか
サービスによっては、ユーザーごとにアカウントを分けて閲覧範囲を制限したり、受信FAXを自動でフォルダ振り分けする機能を持つものがあります。部門数や運用人数に応じて比較軸に加えて検討してください。
まとめ
クラウドFAXへの移行は、FAX業務をゼロにする取り組みではなく、複合機と専用回線に依存していた送受信の入り口をネットワーク経由に置き換える取り組みです。取引先の事情でFAXが残ることを前提に、番号の棚卸し、並行運用、取引先への周知、運用ルールの整備という順番で進めれば混乱を抑えながら移行できます。料金や仕様は改定されることがあるため、契約前には必ず公式サイトで最新情報を確認してください。
最終更新:2026年7月
